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桐生選手の「9秒98」がこれから引き起こすこと ~パラダイムシフトとは~

「9秒98」

もちろんみなさんご存知ですよね、福井で開催された2017インカレの男子100m決勝で東洋大の桐生選手が叩き出した日本新記録です。日本陸上界悲願の9秒台です。世界陸上の100m代表を逃し、400mリレーの銅メダルに貢献したものの、不完全燃焼だったであろう桐生選手が逆境を跳ね返し、偉業につなげていく過程にはコーチとの衝突や葛藤など様々なドラマがあったと思います。興味深いですよね。でもそこはスポーツライターの方の取材にお任せしましょう。今日は別の面から掘り下げてみたいと思います。

 

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まず最初に大胆な予言をします。今後桐生選手に続いて、「9秒台ホルダー」が次々と登場するでしょう。そして2020年東京オリンピックの400mリレーでは「9秒台ホルダー」を4人揃えて金メダルも夢ではないと思います。

 

なぜそんなことが言えるのか、それは「パラダイムシフト」が起こり始めていることをひしひしと感じるからです。「パラダイム」とは、既成概念、ルール、固定観念、思い込み、などと置き換えられる概念です。そして、既成概念の破壊が、「パラダイムシフト」です。

 

同じスポーツ界で実例をあげてみましょう。日本の野球選手のメジャーリーグ挑戦の歴史です。昔から、「ピッチャーならなんとか通用するかもしれない」と言われていた日本野球ですが、トルネード投法で一世を風靡した野茂選手の活躍により、ピッチャーは通用するどころか、一流選手としてメジャーでもやっていける実例が示されました。その後メジャーに挑戦するピッチャーが次々現れましたよね。でも、「ピッチャーは通用したが、野手は無理だろう」というパラダイムは残っていました。そのパラダイムに果敢に挑戦し、大きな「パラダイムシフト」を起こしたのはイチロー選手ですね。あの華奢な体で前人未踏の記録を打ち立て、殿堂入りも夢ではない、全米の野球ファンの尊敬の的となったのですから。そして、彼の起こした「パラダイムシフト」の波に乗って、多くの野手がメジャーに挑戦しました。

 

パラダイムシフト」が起こる過程には一定のパタンがあります。

 

  1. 既成のパラダイムに異論を持つ非主流派が現れる
  2. 新しいパラダイムの可能性を示す実例が示される
  3. 新しいパラダイムが徐々に受け入れられる
  4. 新しいパラダイムが主流となり「パラダイムシフト」が完了する

 

さて、「9秒98」は、日本陸上界の「パラダイムシフト」をどの段階に進めたのでしょうか。日本人にも9秒台は可能だと信じるコーチ、選手の努力によって(1段階)、ついに公式記録としての9秒台が示された(2段階)、ここまでは異論がないでしょう。ここからは私の個人的見解ですけれども、「日本人にも9秒台は可能だ」という新しいパラダイムはすでにかなりの人々に受け入れられているのではないでしょうか(3段階)。

 

桐生選手は高校3年生で10秒01の歴代2位の記録を叩き出し、俄然注目されたわけですが、今回の偉業達成までの4年間、本人やコーチ、陸上関係者、そして陸上ファンの方々が9秒台を信じて、その時に向けて、気持ちを盛り上げてきた、徐々に新しいパラダイムが浸透してきたと思うのです。ですから、「9秒98」のニュースが流れたとき、驚きの感情より、安堵感の方が大きかったのではないかと思うのです。9秒台の「パラダイムシフト」は確かに軌道に乗りました。

 

社会的にも経済的にも閉塞感を感じる現代にあって、あらゆる分野で「パラダイムシフト」が求められているのではないでしょうか。我々も、それぞれの分野での、「桐生選手」でありたいと思います。

 

なお、「パラダイムシフト」の議論は科学的でないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実は「パラダイムシフト」とは、むしろ「科学革命」という文脈で、トーマス・クーンによって提唱された概念なのです。こちらについてはまた機会を改めてご紹介したいと思います。

 

最後までお読みいただき誠にありがとうございました。